不器用な愛を刻む
「…入るね、椿ちゃん。」
「…!あ…喜一さん…。」
背後から障子が開く音がして
それと同時に
いつもと同じ、正装に身を包んだ
喜一が中へ入ってきた。
柔らかい笑みを小さく浮かべながら
そっ…と
椿の隣へ腰を下ろす。
「……あれ、何だか今日は顔色悪いね。」
「え?
…あら、さっきまでは良かったのに…。」
「なんだよ善。
俺が椿ちゃんの所に来たからって嫉妬?」
もーヤキモチ妬きだなぁー
と
いつもの善に話しかけるような口調で
目の前で寝ている彼に
話しかける喜一。
…それに、返事をする声はない。
「……本当、よく寝る子だよねこの子。」
「…ずっと頑張ってましたから…。」
きっと今が
休み時なんですよ。
と
言いながらも
切なそうな笑みを浮かべる椿。
そんな彼女を横目に見て
喜一は
胸が張り裂けるような気持ちになった。
(………早く起きろよ、善…。)
椿ちゃん、ずっと待ってるんだぞ。
と
喜一は声に出さずに
善へ心の中から訴える。
それと同時に
何も出来ない悔しい気持ちを
硬く力を入れた拳に込めて---。