不器用な愛を刻む
「……もう、夏になりますね。」
「………そうだね…。」
強くなる日差しに 目を細めながら
椿が呟いた言葉に
喜一が小さくそう返す。
(………善様が目覚めた時…
季節が変わってたら…驚くだろうなぁ。)
『ククッ…何だ、今はもう夏なのか?』
『フッ…暑ィとは思ってたけどよォ。』
……なんて
彼が言いそうな言葉が
すらすらと頭に浮かんできて
椿は小さく…笑みを浮かべた。
「…椿ちゃ…
──────っ!!」
そんな彼女に
声をかけようと横を向いた喜一は
思わず、息を飲んだ。
───泣いている。彼女が。
笑みを浮かべながらも
込み上げてくる気持ちが抑えられないのか
ツー…と
静かに頬を涙が流れ伝って
そしてポトッ…と、
顎から畳へと その雫が落ちた。
「っ………!」
それを見た瞬間
喜一は弾かれたように
-----隣の椿を抱き締めた。
寂しいはず。
辛いはず。
苦しいはず。
恋しいはず──。
その感情を
寝ている彼の前ですら
見せまいと我慢してきたであろう
その彼女の姿が
あまりにも
労しかったから…。