不器用な愛を刻む
『愛しているから』
「………。」
「………。」
役所から少し離れたところにある療養所の
誰もいない和室に
静かに横たわっている彼の手を
椿はただ静かに、握っていた。
目の前で寝ている彼から聞こえる
微かな呼吸音が
部屋で静かに響く。
───あれから、すでに1ヶ月が過ぎた。
季節は変わろうとしていて
初夏に入った。
少し暑くなった日差しが
外から差し込んで、優しく2人を照らす。
…あれから
すぐに喜一の連れてきた
救護班のおかげで
どうにか一命を取り留めた善ではあったが
銃弾が、腹部に2発命中していたため
内臓の損傷が激しく
今もまだ、どうなるかわからない状態にある。
もちろん意識もなく
ただ静かに
月日が経過するだけの毎日。
──彼がまた起きるという保証は
どこにもなかった。
「………ゆっくり、休んでくださいね。」
お店のことは
私に任せて大丈夫ですからね。
と
椿は善の手を撫でながら
優しく話しかける。
-----もちろん、彼から
返事が来ることは……ない。