不器用な愛を刻む






善の人気っぷりに
気を取られすぎて

背後の気配に気づかなかったのだ。







椿のそばに立つその彼は

善と同じ位の身長で
善とは真逆の、真っ黒な短髪をしていた。





不思議そうに椿を見下ろす彼に



慌てて椿は一礼して
自己紹介をした。








「わ、私、本日から雇って頂きました
椿と申します!」

「…あぁ!アンタが椿さんか!」








椿が名乗ると

青年は納得したように頷いて
明るい声でそう言った。




何故自分を知ってるのか、と
不思議に思いながら

椿が顔を上げれば





青年は爽やかな笑顔を浮かべながら
椿に説明する。








「お袋と親父が言ってたんだ。
良い子が店に来そうだ、ってな。」







そーかそーか、アンタかぁ。








青年は椿の姿を見て
さらに納得したように笑顔で頷いて


椿に話しかけた。










「俺はここの長男の景次(ケイジ)。
よろしくな椿さん!」

「あっ、よ、よろしくお願いします!」








椿は景次に一礼しながら
そう答え

笑顔で挨拶をする。





人柄は良さそうで爽やかな彼に

椿はホッと肩を下ろした。









「………。」









そんな椿の様子を

善が横目で見ていたとは知らずに───。









< 146 / 180 >

この作品をシェア

pagetop