不器用な愛を刻む
善の人気っぷりに
気を取られすぎて
背後の気配に気づかなかったのだ。
椿のそばに立つその彼は
善と同じ位の身長で
善とは真逆の、真っ黒な短髪をしていた。
不思議そうに椿を見下ろす彼に
慌てて椿は一礼して
自己紹介をした。
「わ、私、本日から雇って頂きました
椿と申します!」
「…あぁ!アンタが椿さんか!」
椿が名乗ると
青年は納得したように頷いて
明るい声でそう言った。
何故自分を知ってるのか、と
不思議に思いながら
椿が顔を上げれば
青年は爽やかな笑顔を浮かべながら
椿に説明する。
「お袋と親父が言ってたんだ。
良い子が店に来そうだ、ってな。」
そーかそーか、アンタかぁ。
と
青年は椿の姿を見て
さらに納得したように笑顔で頷いて
椿に話しかけた。
「俺はここの長男の景次(ケイジ)。
よろしくな椿さん!」
「あっ、よ、よろしくお願いします!」
椿は景次に一礼しながら
そう答え
笑顔で挨拶をする。
人柄は良さそうで爽やかな彼に
椿はホッと肩を下ろした。
「………。」
そんな椿の様子を
善が横目で見ていたとは知らずに───。