不器用な愛を刻む
そしてそのまま 背中が何かに当たる。
驚いて椿が見上げると
そこには
いつの間にこちらへ来ていたのか──
真っ直ぐな視線を
景次へと向ける 善が立っていた。
もちろん
椿の体を引いたのも
彼の仕業である───。
「椿、女将がお前を探してたぞ。」
「ぜ、善様……
って、え?!本当ですか!?」
これはいけない!
と
椿が慌てて女将を探しに
その場を離れる──。
善と景次は
彼女が慌てて出て行く姿を見送ると
同時に顔を見合わせた。
「えっと……あ、俺 景次っていいます!
椿さんからチラッと話聞きました。」
「善だ。…これからよろしく頼む。」
慌てて景次が挨拶を済ませると
善も落ち着いた様子で挨拶を返す。
やはり 善の見た目や雰囲気を
景次も感じ取り、
どこか改まった様子で
少し体を緊張させた。
善が黙って厨房の方から
暖簾をくぐって
店内の方へと移動すると
景次は少しホッとするように
緊張を解いた。
(……すげぇ威圧視線だったなー…。)
と
先ほどの善の視線を思い出し
そんなことを思う。
景次は頭を掻きながら
厨房の中で長く息を吐いた。