不器用な愛を刻む
───やがて、日は落ちて
店終いの時間になる。
椿たちは
掃除をしたり洗い物を片付けたりと
急いで最後の仕事に取り掛かっていた。
「善さん、仕事の後空いてないかい?」
「私らと一杯飲みに行こうよ!」
───そんな横で
最後の最後まで店に残り
善との会話を楽しんでいる客が
そんなことを言う。
善はいつもの笑みのまま
女性客の相手をしながら
片付けをしていた。
「悪いが空いてねェな。」
「えー!そんな水臭いこと言わんでさぁ。
今日くらい良いじゃないかい!」
「ククッ…粘るなァ、嬢さん。」
善がキッパリ断っても
駄々をこねて
粘る女性客たち──。
そんな客らに
善は喉で笑いながら
悪いなァ、と断り続ける。
「………。」
もちろん
それを椿も聞いているわけで───。
椿は近くで聞こえるその話を聞きながら
少々顔を曇らせていた。
(………。)
そんな椿の姿を
また景次も、そばで見ていて。
何となく椿の表情が
浮かないのを見て察した景次は
ポンッ、と背中を叩いて
椿を励ました。
「1日お疲れ様な、椿さん!
あと少しだからパパッと終わらせようぜ!」
「──!
…はい、頑張ります!」
景次のさりげない気遣いに
椿は優しさを感じて
笑顔でそう答える。
「うし、その調子!」
椿の返事に
景次も満面の笑みで返した。