不器用な愛を刻む







そうして椿が片付けを終えた頃には

女性客たちもやっとお店を出て、
善も厨房の方へやって来る。






しかし椿に話しかけることはなく

チラッと様子を伺うように
視線を何度か向けて



また荷物を持って出て行った。









「………。」









そんな善の様子を見ながら

景次は不思議そうに
首を傾げる。








「……ふぅ。
景次さん、片付け終わりました!」

「ん?おぉそっか。
じゃあ……善さんが帰ってきたら、上がりで!」

「ありがとうございます!」








景次は
厨房に自分の両親がいないのを見て


代わりに自分が確認し、
椿に仕事終了の言葉を告げた。






椿はそれを聞いて
笑顔で頷くと



厨房を後にして

店内の方へと歩いて行く。









「善様?どこにいらっしゃいますか?」









椿がそう声を発しながら
店内を歩くと




外から荷物を置き終えた善が

ガラガラ、と戸を開けて
無言で中へ入ってくる。






そこに椿が駆け寄って

優しい笑みを浮かべながら
善へ話しかける。









「善様、今日のお仕事はこれで終わりだそうです。」

「………そうか。」









椿が話しかけているのに

善は何故か目を合わせず、
素っ気ない返事をして

そのまま店の奥へと歩いて行ってしまった。







そんな彼の行動に

椿は違和感と不安を抱きながら

首を傾げ、その場に立ち止まる。








(………善様…?)









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