不器用な愛を刻む
「……別にお前に怒ってるわけじゃねェ。」
「……え…。」
善がそう言いながら
フイッと 椿から顔を背けると
椿は少し困惑しながらも
再び尋ねる。
「……あ、あの…
それならどうして あんな態度を…。」
自分に怒ってるわけではないのなら
何故あんな風に
冷たい言葉と態度で
お店を出て行ったのか───。
椿はそれが気になって
善にそう質問を返した。
椿のその質問に対して
善はいつもの定位置である
窓辺に座って
外を眺めながら少しの間黙る。
(………俺もまだまだガキってわけか…?)
以前、喜一と会話していた時にも
湧いたことのある
この感情───。
やっと彼女が自分のものになったと
実感したばかりというのに
余裕なく
再び沸き起こっなこの感情は
考えなくても
善には何なのか 分かっていた。
「……慣れない女客相手だったからな。
これでも少し疲れちまってなァ。」
──しかし
善の性格上、それを本人には言えるわけもなく。
結局はこうして
小さな嘘を、椿に告げてしまう。
「…そう、なんですか……。」
それに対して
椿もどこか納得いかないとは
思っていたものの、
そこではもう
深く追求することは出来ず───。
椿の返事に、善は薄く微笑んで
いつもの定位置から立ち上がると
椿の頭に1度手を置く。
そしてそのまま彼女の横を通り過ぎて
風呂場へと、向かってしまった。
(………善様…。)
椿は善の後ろ姿を眺めながら
ぼんやりと、
今日の出来事を振り返った。