不器用な愛を刻む
椿が驚いて彼を見上げていれば
洋服の役人の格好をした喜一を見て
隣の景次は
困惑した様子で2人を見比べる。
「え……し、知り合いの人?」
「あ、えっと
善様のご友人で、それで…。」
「一応元婚約者だよね?」
「っ、えぇ?!」
椿の説明に
ややこしく喜一が説明を付け足すと
景次は目を見開いて
声をあげた。
同じ職場の人間が
高貴な役人の元婚約者だなんて
普通では滅多に聞かない話である。
そんな景次に
椿はあたふたしながら
「これには少し訳があって…っ!」と
必死に言葉を付け足す。
「…椿ちゃん、彼は…?」
「あっ、えっと
この方は景次さんと言いまして
今同じ茶屋で働いてる方です!」
「……茶屋?」
ずっと気になっていた
肝心なところを尋ねた喜一だったが
椿の言葉に疑問を覚えて
首を傾げる。
善の手取りで十分やっていけるはずなのに
何故わざわざ他で彼女が?
それにこんな事実を
善は知っているのか?
「どうして働いてるの?
善はそれを許してるの?」
「あ、善様も一緒に働いてます!」
「っ…え?」
思わぬ言葉に
喜一は驚きながら
マヌケな声を出してしまった。
善が茶屋で働く?
(………いやいやいや。)
あまりにも
似合わなすぎる。
喜一はそう思いながら
椿を見下ろしていた視線を避けて
隣の景次へと、視線を向けた。
「…それで君たちは今、買い出しを?」
「えっ…あ、はい。そうっす…。」
突然話しかけられた景次は
喜一を見ながら
ぎこちなく返事を返す。
(………。)
喜一は
目の前の2人を眺めながら
少し黙って、頭で考える。