不器用な愛を刻む
「…椿さんってすげぇんだな。」
「えっ?」
「あんな人と知り合いで
尚且つ婚約者だったなんてよ…。」
一方
喜一が去った後の2人は
そんなことを話していた。
驚きに浸っている景次を見て
椿は慌ててそれを否定する。
「ち、違うんです!
あれはちょっと一時期間だけの契約と言いますか…!」
「いやぁ、俺は
てっきり善さんと好い仲なんだと
思ってたんだけどなぁ。」
「───!」
椿の言葉が耳に入ってないらしい
景次の口から
そんな言葉が出て
椿は一瞬
ドキッ、と胸を鳴らした。
(い、好い仲って……っ。)
勘が鋭いのか
察しが良いのか
図星をついてきた景次の言葉に
少し顔を赤らめながら
椿は顔を伏せた。
「えっと…そ、その…あの…。」
「お?何だ照れてんのかい?
かーっ、初々しいねぇ!」
景次がケラケラと笑いながら
八百屋の店主に
買い足すべきものを注文し
購入し始める。
椿は火照る顔に手を当てながら
恥ずかしそうに顔を上げて
買った野菜を店主から受け取る。
(そんな風に見られてたなんて
何だか 嬉しいようで恥ずかしい…っ。)
そんな彼と
仲を見せつけるような
ことをした覚えはないのだが…と
椿は不思議に思いながらも
景次と一緒に店に帰りながら
ドキドキと胸を鳴らしていた。