不器用な愛を刻む
「うぃ、ただいま!」
「お、あんたたちやっと帰ってきたね!
野菜が足りなくて困ってたんだよ!」
お店に戻れば
厨房には女将がいて
椿たちの帰りを待っていたらしく、
すぐに野菜を受け取った。
椿たちも仕事に戻り
女将の代わりに
彼女が店内の接客にまわる。
「………ぁ…。」
店内に出れば
昨日から善に目をつけていたらしい
あの女性客らが
今日も来ていて、彼を独占していた。
「善さんは本当面白いねぇ。
今夜はどうだい?飲みに行けないかい?」
「ククッ……どうするかねェ。」
──善も、何となく満更でもない様子で。
チラッと椿の方を見て
彼女の存在を把握すると
「まぁ俺の気分次第だなァ。」と
意味深に笑みを深めて
逆にそう告げた。
───ズキッ
それを間近に見て
耳で聞いてしまった椿は
胸の奥に
鋭い痛みが走るのを感じた。
善はそれから椿から目を逸らし、
女性客らと会話を再開させる。
それを見た椿も
仕方なく視線を逸らし、
自分の仕事を全うしようと
その場から少し離れた。
(………痛い。)
胸が、痛い。
どうしようもなく辛くて
苦しい。
気持ちがやっと通じ合ってから
まだ日も浅いうち。
いつ気が変わっても
おかしくないとは思っていた。
でも───
いざそんな態度を見てしまうと
どうしようもなく、辛かった。
椿は薄っすら涙目になるのを
必死に抑えて
注文をもらった料理を
厨房へ告げに行く。
「…注文、2件いただきました。」
「あいよー!…って、おい?椿さん…?」
元気よく
いつものように返事をする景次が
ふと、彼女の顔を見て
笑みを消す。
「……どうか、したのか?」
「っ……あ、いえ、何も…。」
「何もって面じゃ…!」
景次が椿に近づいて
彼女の顔を覗き込めば
椿はそれにつられて
ポロっと
一滴涙が溢れてしまった。
「……!」
そんな姿を見て
景次が目を見開いた。