不器用な愛を刻む








「……なぁ善。
…君本当に組織を…抜けるの?」

「……あぁ。」

「……これまで、あんなに頑張ってきたのに?」








帰り道を歩きながら


喜一が静かに、善へそう尋ねた。







-----改革が起こってから数年。





改革以前のような勢いを無くした警察に

善はすでに
存在意味を無くしているように思えた。






…自分を拾ってくれた組織。






しかし

改革の時に起こった戦いによって




その頃の上司も同期も

ほとんどが命を落とし
すでに組織からは消えていた。







それに加えて


力を無くして
ただの政府の召使いと成り果てかけている


この組織に






善は縛られるつもりはなかった。









「ククッ、お前も分かってるだろ?
……ここに俺は必要ない。」








もうこの組織に

"強い戦力"は必要とされてない。






ならば、どうして自分が

ここへ残る必要があるというのか?









「…弱い組織に留まるつもりはねェよ。」

「……そう。」









善の返事に

喜一は寂しそうに小さく笑みを浮かべて
前へ向き直った。





喜一はすでに上司から

出世の話をもらい、それを受ける約束をしていた。






善にももちろん来ていたが

それはすぐに断っている。





あとは、今月で
善が組織を抜けるだけ──。









「……寂しくなるなぁ。」

「…フッ、そんな一生の別れじゃねェだろうが。」








会いたきゃいつでも会えるだろうよ、と

喜一を慰める善。






喜一もその言葉に
笑みをこぼして、「確かに。」と返す。










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