不器用な愛を刻む
「---嬢さん、夜道を1人で歩くなんざ
物騒な真似…しちゃマズイだろ。」
あの夜桜が舞う夜
俺は無意識に何故か
女にそう声をかけていた。
夜中に散歩に出歩く癖は
昔からあったが
こうして知らない誰かに声をかけるなんて
今までにしたことはなかった。
それも───こんな橋に来た人間に。
ここに来て死んでいく人間を
俺は何度も見てきていたし
それを止めたこともなかった。
次の日町で噂が立とうが
知らぬふり。
そんな自分が何故
彼女に──?
今考えても
その時の自分の心理はわからない。
「死ぬつもりならやめておけ。
その命-----代わりに俺が貰ってやる。」
ただ気付いた時には
彼女に、そう言っていたのだ。
その時に抱きしめた彼女の感覚を
俺は今でも、はっきり覚えてる。
泣くあいつの
頭を撫でたことも覚えている。
「…その男は必ず俺が討ってやる。
だからお前ェは死ぬな。…生きろ。」
───生きろ。
強く想いを込めて
そんな言葉を発した。
何でそんなことを言ったのか。
それは、
あいつが死にそうだったから
あいつが悲しんでいたから
あいつに死んでほしくなかったから
…だからだと
今までずっと…思っていた。