きみに触れられない
「あ、あたし、用事あるんだ」

先に行ってるね。

綾芽ちゃんは手を振って、屋上から出て行こうとした。


「あ、待って!」

私は思わず綾芽ちゃんを呼び止めた。

綾芽ちゃんは不思議そうに振り返る。


「あの、好きって、どういう気持ち?」


キョトンとした綾芽ちゃんは一瞬考える様子をして、それから笑った。


「誰にも当てはまることじゃないかもしれないけど、あたしはね。その人の笑顔をいちばん近くでみていたいって、誰よりいちばん幸せになってほしいって思うよ」


綾芽ちゃんは屋上を後にした。

その姿を私も手を振って見送りながら笑った。

けれど綾芽ちゃんの姿が見えなくなると同時に笑顔が消えた。

崩れ落ちるように座り込んだ。

膝を抱え込んで、膝に頭をつけて。

壊れそうな心を抱きとめるように、腕に力を入れていた。


誰かがカナを好きになる。


そんなこと、いくらでもあった。

何回もあった。

ありふれた出来事だ。


それなのに、どうして。


どうしてこんなに、胸が痛いの。


「あーあ、なんで言わなかったのさ」


後ろからそんな声が聞こえてきて、私は顔を上げた。

恐る恐る振り返る。


「また、そんなに泣いて」


「ハル…」


そこにはハルがいた。
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