きみに触れられない
「やりたい部活なかったから」

それから肩にかけていたスクールバッグをかけ直した。

「それに、部活に入ったら塾に行く時間がなくなっちゃう」

「さっすが学年主席。将来に向かって一直線だな」

カナは冗談めかしておどけたように言う。

「だって、現役で医学部に入ろうと思ったら、全然時間ないんだよ?」

足りない。いくらあっても、全然。

するとカナは「そういうこと言うなよ!朝から気持ちが暗くなるだろ?」と焦ったように叫ぶ。


「まだ高校2年生の7月だぞ?ミサはさ、なんか、こう、青春!みたいなことしなくていいのか?」


おそらくカナが言う『青春!みたいなこと』とはおそらく部活やら習い事やら、きっと勉強以外のことを指しているのだろう。


「勉強ばっかで苦しくないのか? ミサ、学校が終わったら夜11時まで塾だろ?」

私は頷いた。


「苦しくないし、勉強は嫌いじゃないから」


カナは「その感覚が分からない」と肩をすくめた。


視線を前に向けると一時停止の標識が現れた。


「ありがとうね」


私は振り向いて笑ってみせた。


「…俺はなんならクラスまで一緒に行ってもいいんだけど」とカナは言う。


「ダメだよ」と私は条件反射並みの勢いで反論した。

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