きみに触れられない
「私とカナが一緒に行ったら変な噂が立つでしょ?それに、カナ、朝練あるんだから行かないと」

ね、と微笑みかければカナは黙ってしまった。

「じゃあ、またクラスで」

「うん、またね」

手を振り分かれて一人で歩きだした。


ごめんね、と遠ざかるカナの後ろ姿を見つめながら呟く。

カナのことが嫌いなわけじゃない。カナと一緒に学校に来るのが嫌いなわけじゃない。

それでもこの標識を目印に別々に分かれるのは、私が弱いから。

私とカナが付き合ってるんじゃないかと噂が立ったときに、きっと私がその雰囲気に耐えられないから。


それからしばらくすると学校に着いた。

グラウンドの方からは朝練をしているらしい生徒たちの声が聞こえるが、ひとたび校舎の中に入れば水を打ったような静けさだった。

私は朝のひっそりとしたこの静けさがとても好きだ。

落ち着いて、今日の日を頑張ろうと思えるから。


朝7時20分のクラスには誰もいなかった。

チクタク、チクタク、淡々と時を刻む時計の秒針の音しか聞こえない。

私は肺の空気を全部出して、ゆっくり吸い込んだ。

それから鞄の中からペンケースとノート、数学の参考書を取り出して、昨日の夜の続きから解き始める。

いくつか問題を解いていると、徐々に人が集まり始めるのを感じた。

静かだったクラスが、徐々に騒がしくなる。

けれどその騒がしさも苦にはならない。多少の雑音がある方が私は集中しやすい。

だけど、話し声は聞こえてくる。

「またやってる」

こういう、クラスメイトのヒソヒソ声。
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