きみに触れられない
そしてそのまま放課後になった。

ざわざわとしていた教室から徐々に人がいなくなっていく。

放課後の閑散とした空気の中で、私は溜め息を吐いた。


__ずっと声をかけたかった。

休み時間、掃除の時間。

何度も何度も川島さんに声をかけようとしたけど、なかなか声をかけられなかった。

早く言わなきゃって焦って、結局言えなくて。


一歩踏み出すことが、怖くて。


立ちすくんでしまう、私の弱さ。


はぁ、と溜め息を吐いた時だった。

ガタッと椅子を引く音が聞こえてハッと視線をあげると、川島さんがスクールバッグと白に赤のラインが入ったいエナメルを背負って立ち上がった。


__川島さんが、部活に行ってしまう。

帰ってしまう!


「あの!」


気づいたときには立ち上がって叫んでいた。

まだ教室に残っていた全員が私に注目を集める。

恥ずかしくなって顔が赤くなる。

「どうしたの?」

川島さんは特に驚いた表情もせず、まっすぐな目で私を見つめる。
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