きみに触れられない
「あの、わ、私!」

混乱でいっぱいいっぱいになっていると、「ちょっと場所変えるよ」と川島さんが私の腕を掴んで教室を出た。

「えっ、あの!」

教室から出た瞬間、瞳はカナを捉えていた。

驚きで目を見開いた表情が焼きついて離れない。



__どこへ行くんだろう。

手を引かれて校舎を歩くけど、川島さんがどこへ行こうとしているのか分からない。


「この辺でいいかな」


連れ出されたのは、校内の自販機の前だった。

呆然としていると、川島さんはスクールバッグから財布を取り出して自販機でジュースを買っていた。

「はい」

差し出されたのはミルクティーのペットボトルだった。

「え…?」

「米山さんミルクティー飲めない? それなら別のにするよ」

「あ、ううん、飲めるよ!」

「そう。それなら良かった」

川島さんは微笑んだ。

それから2人でベンチに座る。

川島さんはレモン味の炭酸水をグーッと飲むと、ぷはあ、と息を吐きだした。

まるでテレビのコマーシャルみたいだ。

美味しそうにごくごくと喉を鳴らして飲む気持ちのいい飲みっぷりとその爽やかで美しい横顔に、私は思わず圧倒されてしまった。

「好きなんだよね、コレ」

川島さんはレモン味の炭酸水が入ったペットボトルを軽く振りながら笑った。
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