紳士的な狼の求愛

……うれしくない、といえば、嘘になる。
私だって女だ。
男性に、しかも有馬くんのような人に、こんなこと言われたら、うれしい。

7年前の私だったら、真っ赤な顔をして、うなづいていた。

だけど、今の私の立場では、取引先との恋愛なんて、ありえない。


バイヤーは、仕入れの権限を持つ。
心ひとつで、何千万円、時には何億円ものお金が動く。
ベンダーやメーカーは、私達を持ち上げ、取り入り、商品を買ってもらおうとする。定番棚に置いてもらおうとする。

バイヤーになりたての頃、教えてくれたお局様がいた。
『この仕事、取引先との恋愛はタブーよ。
さらに、周りに誤解されるような行動もとっちゃ駄目。
取引先の男性と2人で食事をするのは避けなさい。
取引先の男性の車の助手席に乗るなんて言語道断。
自分のキャリアを守りたかったら覚えておくべき、女性バイヤーとしてのモラルです』

この言葉を指針に今までやってきた。
それはこの先も変わらない。

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