ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。



「……は?」

「日奈子と歳も近い。仕事の評価も高くて人当たりもいい。浮気もしなさそうだ。顔は、お前のタイプかどうかは知らないが整ってる」

「……」



開いた口が塞がらない。婚約者がいるなんてことは、生まれてこのかた初耳だった。それを浮気しないだの顔は整っているだの言われても……。



「来週末に会わせるから、予定を空けておきなさい。それからお前、会食用のワンピース一着すら持ってないだろう。用意させることもできるけど、好みがあるなら自分で選びにいきなさい」



そう言ってお父さんはポケットの中に入れていた財布からすっとカードを取り出して私に渡した。そのカードの色がブラックなのを確認して私は間髪入れずにそれを大理石の床の上に投げつけた。



「あぁっ」



何をする! と戸惑いながらカードを拾うお父さんを見下ろしても、私の怒りはおさまらない。

勝手なことばかり言うし、ブラックカードって……家族で節約生活をしていたはずなのに、どんだけカード切ったらブラックになるんだ! と別の怒りまでおさまらない。

お父さんをその場に残して私は与えられた自分の部屋に籠った。

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