ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。



3人で暮らしていた部屋のリビングよりも広い部屋を充てがわれて、ため息が出る。こんなに広い部屋、要らない。

部屋の真ん中にぽつんと立って、この場所がいかに自分の身に余るかをあらためて実感して。私は決めた。

あの家にいたらあの手この手でよくわからない婚約者と結婚させられてしまうから。

出て行こう。



こっそりと新しい家を探した。決行はお父さんが接待ゴルフで家を空けている間に。祖父の家の自分に充てがわれた部屋にある段ボール(荷ほどきはしないまま)を、そのまま新居へと発送した。





そして今に至る。

引越して2日目の今日、一人暮らしで誰の目も気にしない自由気ままな生活を満喫! ……かと思いきや。








「日奈子ちゃん、この棚はここでいいの?」

「あぁ、えぇ……そうですね。そこで……大丈夫です」



管理人さんは〝よっ〟と自分の背丈ほどあるスチールラックを抱えて場所を移動させる。

私はそれを横目に見ながら段ボールの荷ほどきをする。



瀬尾日奈子。

断っても断っても手伝ってくれようとする管理人さんに根負けして、今は諦めモードです。



ただそうは言っても実際助かった部分もある。

一人で家具店に行った私は、自分で大きな家具を購入したことがなかった。

店員さんの「組み立てはどうしますか?」という問いかけに、何を思ったか「大丈夫です。自分でやります」と言ってしまった。できるような気がしたんだけど……。

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