ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
「今晩……?」

「……今日、あなた誕生日じゃないですか。夜は一緒に食事するって一ヶ月は前に約束してました」

「あぁ……」



この反応を見れば覚えていないことは明らかだ。それでも私はまだ少し期待して、続く言葉を待つ。



「この歳になったら自分の誕生日なんていちいち覚えていませんよ。嬉しいものでもないですしね」

「じゃあ今日は」

「今日はあなたのお父様の会食に付き添います」

「……」

「……何か用意してくれていたんですか?」



くいっと顎を持ち上げて上を向かせられる。無理やり合わせられた視線が絡む。眼鏡の奥の静かな瞳。そこに自分が映り込むと嬉しくなってしまうのは。

惚れた弱み?

じっと強い目で見つめ返して返事をする。



「……残念ながら、用意は何も」

「そうですか」



新田さんはふっと笑って私の顎にかけていた指をはずす。



「こんなところ、社長に見られたら私はきっと殺されてしまいますね」
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