ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
そんな電話が朝にあったせいで、私はこの日一日仕事に身が入らなくて困った。ちゃんとしよう、とは何度も思うのだけど、気付けばぼーっとして、新田さんのことを考えてしまう。
「……瀬尾さーん」
「……えっ?」
低い声で名前を呼ばれて後ろを振り返ると、大量の書類を抱えた鍋島さんがじと目で私のことを見下ろしていた。その表情で私はハッと気づく。鍋島さん、怒ってる。
「仕事しな」
「はい……」
ごめんなさい、と頭を下げて、キーボードの上で宙に浮いたまま固まっていた手を動かした。後ろから小さなため息が聴こえる。……これはちょっと呆れられてしまったなぁ。ちゃんとしている人に呆れられるのはつらい。
鍋島さんはどれだけ仲の良い相手であっても贔屓をしない。私の知っている限り、彼女は自分の同期であろうと怠惰な部分があれば手厳しく指摘する。この間だって、いつも休憩時間に雰囲気よく談笑している営業さんが持ってきた書類を「期限過ぎてます」と言って突っぱねていた。