ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
彼女のことを『融通が利かない』と言う人もいるけど、そういう人は信頼できると思う。彼女の判断基準は“相手”じゃなくて“自分が信じる正しさ”にあるから、そこさえ自分が裏切らなければ裏切られることもない。鍋島さんだけはもしかしたら、私が社長の娘だとわかったところで手加減なく叱ってくれるのかもしれない。だから私は鍋島さんが好きなんだろうな、と一人納得しながら、これ以上呆れられないように手を動かした。
私が社長の娘だと知った上で、告白を受け入れてくれた新田さんはどうなんだろう。
仕事をあがって夜の七時過ぎ。“いつもの場所”と指定された喫茶店へと向かった。会社の最寄り駅を超えて更に十分ほど歩かなければならない場所にある喫茶店は、路地を一本入ったところにあるからかうちの会社の社員は誰も寄り付かない。
鍋島さんは、わかりやすくて信頼できる。彼女の態度の決め方は基準がはっきりしているから。
でも新田さんのことは、よくわからない。彼はどんな基準で態度を決めているのか。五年前に私の告白を受け入れたときは、何を思ってOKしたのか。彼のどんな基準が、私を抱かないことを彼に選ばせているのか。それなのに未だ振られる気配もないのはどうしてか。
よくわからない。