ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。

「……」



店内を見まわしたりはしない。彼はいつも同じ席に座って待っている。入り口と窓から最も遠くて、外の自然光は届かない場所。店の一番奥にある二人掛け席で、いつも。彼は私を待つときいつも本を読んでいた。私に気づくとすぐにその本はしまわれてしまうから、何を読んでいたのかは知らない。

店に足を踏み入れた私は迷わず、糸で引っ張られるように視線をそこに向けたけれど。



そこにいたのは。



「……何してるの」



ゆっくりと、力をなくした足取りでその席まで向かった。



「ちょっと久しぶりだな、日奈子」

「なんでお父さんがここに来るの?」



新田さんが座っているはずの席に座っていたのは、ここ最近ずっと避けていた父一人だけ。高そうなスーツを着て経済紙を読んでいる。私は席に着かずに立ったまま彼を見下ろした。父は新聞を広げたまま視線を上げて私を見る。



「電話にはちゃんと出なさい。何回かけたと思ってるんだ」

「ねぇ」

「婚約者に会わせるって話もすっぽかして」

「答えて、なんで?」

「新田に何度も伝言を頼んだはずだが、お前はまったく顔を出さないし」

「……ねぇその新田さんは」



なんでここにいないの?

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