きみに、好きと言える日まで。
微かに鼻をかすめる土の匂い。
あたしはこの匂いが、大好き。
「お願い、まひ。
数学の課題見せてくんないかな。俺今日当たるんだ」
"まひ"
彼だけがこう呼ぶ。
顔と名前が一致しない人が多いのに、彼の声は一発で分かる。
あたしの前へ回り込んで『この通り!』両手を合わせて頼むのは。
「……耀くん」
八神 耀太(ヤガミ ヨウタ)
同じクラスで隣の席の男の子。
ジャージ姿で、少し息を切らしている。
「……課題、忘れちゃったの?」
「ああ。帰ってベッドに倒れ込んだら記憶がなくなって、気づいたら朝だった」
「ふふっ」