花盗人も罪になる
それから逸樹は、大阪へ出張に行っている時に起こった出来事を少しためらいがちに話した。

既婚者の先輩たちにいかがわしい店に連れ込まれそうになったこと。

絶対にイヤだと入店を拒否して一足先にホテルへ戻ったこと。

しかし店先で客引きの若い女性に抱きつかれた時、気付かないうちにワイシャツに化粧品がついていたこと。

そのせいでゆうべから妻と気まずい状態になっていること。

「やましいことなんてひとつもないんだけど……既婚者の先輩たちがそんな店に出入りしてるって知ったらこの先また妻が不安になるかなって考えると、なんとなく言い出しにくくて」

逸樹の話を聞いている間、香織は大阪へ出張していた他の主任たちの顔を思い浮かべていた。

会社では本当にいい上司なのに、職場や家庭を離れるとそんなことを考えているとは。

「僕は妻以外の女性に触れたいとも触れられたいとも思わないので、わざわざ高いお金を払ってまでそんな店に行きたいって気持ちがわかりません」

「……むしろわからなくて良かったです。村岡主任に後ろめたいことがないのなら、本当のことを話して仲直りした方がいいですよ?」

「……ですよね」

他人に話したことで少し気が楽になったのか、逸樹はさっきより少し穏やかな顔をしている。


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