花盗人も罪になる
「妻が言うんです。僕にはその気がなくても、恋愛感情とか下心を持って近付いて来る人もいるんだって。僕はそんなことないと思うんだけど、たまに相手に勘違いさせてるらしいんですよね」

「……それはなんとなくわかります」

自分もそのうちの一人だったのかと、香織は変な汗が背中ににじむのを感じた。

「もし僕が他の誰かを好きになったら、子供を産めない自分は簡単に捨てられるって妻は思ってるみたいで。妻以外の女性にはまったく興味がないって僕はいつも言うんですけど、それでも不安なんでしょうね。僕はそんなに信用されてないのかな」

香織の目には、逸樹の顔が、どことなく寂しげに見えた。

この人は間違いなく、誰よりも深く奥さんを愛している。

奥さんもまた、誰よりも夫を愛しているから不安になるのだと香織は思う。

最初から他の誰かが入り込む余地なんてない。

もちろん、香織自身も含めて。

「私は……信じていないわけじゃないけど好きだから不安になるって奥さんの気持ち、わかりますよ」

「わかるんですか?」

意外そうに尋ねる逸樹の言葉に、香織は思わず小さく笑った。

「わかります。私も同じ女性ですからね」

「僕は同じ男性の考えていることでも、まったくわからないことはあります」

そう言って逸樹はため息をついた。

「同性でもわからないことって……」

「……同じ職場の部下の近田さんには話しづらいことですけどね……。ここだけの話ってことにしてもらえますか?」

「もちろんです」

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