花盗人も罪になる
食事会の翌日には、役所で必要な書類を取り寄せ、ジュエリーショップに結婚指輪を買いに行った。

そのまた翌日、香織は有給を取って大輔と二人で役所に足を運び、婚姻届けを提出した。

その後、近所の小さな教会に立ち寄った。

あまり日本語の上手ではない温厚そうな外国人神父の見守るなか、香織と大輔は二人だけの仮の結婚式を挙げた。

祭壇の前でお互いの指に真新しいおそろいの結婚指輪をはめて、幸せになろうと誓いのキスをした。

その夜はホテルのディナーでお祝いをして、予約していた部屋に泊まった。

久しぶりに重ね合った体でお互いの感触と肌の温もりを感じ、身も心も安心感と幸福感でいっぱいに満たされて、抱きしめ合ったまま眠りについた。

大輔の有給の間は、香織の仕事が終わるとどちらかの家で家族と一緒に食事をしたり、父親の車を借りて迎えに来た大輔の運転でドライブに出掛けたりもした。

そして昨日、大輔は次に帰ってくる約束を残して、新幹線に乗って名残惜しそうに帰っていった。

香織は名字が近田から市橋に変わっただけで、他にはこれといって何も変わらないからか、大輔と結婚したという実感はまだあまり湧かない。

だけど離れていても大輔と同じ結婚指輪をしているだけで、夫婦という確かな絆がそこにあるような気がする。



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