花盗人も罪になる
曜日によって、羊毛フェルトやミシンで作る小物、刺繍、洋裁、和裁など、いろいろな教室を開いている。

入園・入学シーズン前には、ミシンを使って袋物を手作りする教室を開いたりもする。

手芸教室の生徒は、ほとんどが近所の主婦たちだ。

主婦のお小遣い程度の月謝と材料費でここに来ると、道具が揃い、手芸を教わり、レッスンの後にはお茶とお菓子でおしゃべりできる。

手芸を習いたいというよりは、家事や育児、パートなどの合間の時間のちょっとした息抜きのような、クラブ活動をする学生気分でここに来ている生徒も少なくない。

生徒たちが楽しそうにおしゃべりしながら作業をし始めると、奥の部屋から髪の長い女性がやって来た。

「みんな、おしゃべりに気を取られて怪我しないようにね」

「くるみ先生も一緒に作りましょ!」

「そうねぇ。何作ろうかな」


くるみ先生と呼ばれるこの女性は楜澤 柊子(くるみざわ とうこ)、紫恵より9つ歳上の39歳。

この手芸教室の主宰者で、和裁と洋裁の講師の資格を持っている。


彼女と紫恵は不妊治療をしている時にクリニックの待合室で知り合った。

二人は高い頻度で同じ日の同じ時間帯に予約していて、自然と顔見知りになった。

話してみると家も近所で、手芸好きで偶然にも同じ短大の服飾科を卒業しているという共通点が見つかった。

それから二人は、お互いの家を行き来するほど仲の良い友人になった。


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