花盗人も罪になる
ゆうべ逸樹が家に帰ってきたのは夜の8時40分を少し過ぎた頃。

おそらくカフェを出てまっすぐ帰宅したのだろうが、こんな時間まで一体誰とコーヒーを飲んでいたんだろう?

今の職場に配属になった時、逸樹は主任に昇進した。

一緒にカフェに行ったのは、もしかしたら部下かもしれないし、上司かもしれない。

仕事の話なら会社ですればいいのに、なぜわざわざカフェに足を運んだのだろう?

会計を済ませた時間はわかるが、入店した時間はわからない。

当たり前のように残業だと思っていたけれど、本当に残業だろうか?

いや、逸樹に限って浮気とか、そんなことがあるはずはない。

そう思っているはずなのに、紫恵の胸がイヤな音をたててざわついた。


逸樹のスーツをクリーニング店に出した後、紫恵は希望を迎えに保育所へ向かった。

気にするのはやめておこうと思うのに、あのカフェのレシートのことが頭から離れない。

誰かとコーヒーを飲んでいたからって、浮気と決めつけるのもおかしな話だ。

逸樹は今日もいつも通り、紫恵に行ってきますのキスをして出掛けた。

今日は希望がいなくても紫恵が寂しくないように、早く帰ってくると言ってくれた。

些細なことで逸樹を疑うのはやめよう。

紫恵は自分にそう言い聞かせた。




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