花盗人も罪になる
時計の針が6時を指し、音楽が流れ始めると同時に玄関のドアが開いた。

「ただいまー」

キッチンで夕飯の支度をしていた紫恵は、逸樹が約束通り早く買ってきてくれたことにホッとして、コンロの火を止め玄関へと急ぐ。

靴を脱いでリビングに向かおうとする逸樹に、紫恵は思わず飛び付いた。

「いっくん、おかえりなさい!」

いつもなら飛び付いてくるのは希望なのに、今日の紫恵はずいぶん熱烈な出迎えをしてくれるなと、逸樹は嬉しそうに笑った。

「ただいま、しーちゃん」

逸樹はしがみつく紫恵をギュッと抱きしめて、ただいまのキスをした。

いつもはたいてい希望がいるので、ただいまのキスをするのは久しぶりだ。

「おかえりのキスは?」

逸樹が少し身を屈めておかえりのキスを催促すると、紫恵はおかしそうに笑ってキスをした。

手をつないで廊下を歩きリビングに入ると、逸樹は紫恵の手を握ったままラグの上に座って、もう片方の手でネクタイをゆるめた。

「今日は本当に早く帰れたんだね」

「朝、約束したろ?定時で帰れるように必死で頑張ったんだ。少しでも早くしーちゃんに会いたくて、急いで帰ってきた」

逸樹が恥ずかしげもなくさらりとそう言うと、紫恵は嬉しそうに笑った。


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