花盗人も罪になる
定時の後の休憩が終わると、円はパソコンに向かい真面目に仕事をしていた。

残業している社員はまだそれなりの数がいる。

本当は残業なんてしたくもないが、もしかして遅くまで残っていたら目当ての上司に少しでも近付けるのではないかと円は企んでいた。

彼が帰る頃にタイミングよく一緒にオフィスを出るには、それまでに仕事を片付けておかなければならない。

仕事さえ片付けば、あとは仕事をしているふりをして彼の様子を窺うだけだ。

円はいつもより集中して仕事に取り組んだ。



時計の針が7時を指した。

彼が帰り支度を始めるのを見計らって、とっくに仕事を終えていた円も帰り支度を始めた。

鞄を持ってオフィスのドアに向かった彼が、通り掛けに円に声をかけた。

北見(きたみ)さん、あまり無理しなくていいですよ」

「いえ、私もちょうど終わったので帰るところです」

円はバッグを持って立ち上がった。

「主任、電車通勤ですか?」

「電車通勤です」

「じゃあ駅まで一緒に帰りましょう」

「そうですね。もう外も暗いですし」

まだ残っている人たちに挨拶をして、円は逸樹と一緒にオフィスを出た。



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