花盗人も罪になる
会社を出て駅までの道のりを歩きながら、円は思いのほかうまくいったとほくそ笑む。

「主任、おいくつですか?」

「僕は33です」

「結婚されてるんですよね?」

「ええ、結婚7年目になりますね」

結婚7年目にもなれば、少なからず妻への不満があるに違いない。

そんなことを思いながら、円はにこやかに笑って尋ねる。

「割と若いうちに結婚なさったんですね。奥さんも同じくらいのお歳ですか?」

「妻は3つ歳下の30歳です」

「お子さんはいらっしゃるんですか?」

「いえ、子供はいませんよ」

結婚7年目で子供がいないと聞いて、これなら思ったより簡単に彼をおとせるかも知れないと円は心の中で笑う。

「じゃあ夫婦二人きりですね。新婚みたいで羨ましいなぁ」

円が何気なく言った一言に、逸樹はほんの少し苦笑いを浮かべた。

「なんだかさっきから質問攻めで、僕の話ばかりですね。北見さんはおいくつですか?」

「私は26です」

「26か……いい時期ですね。何しても楽しいでしょう」

「そうでもないですよ。せめて素敵な彼がいれば、毎日がもっと楽しくなるんじゃないかなって思ってます」

さりげなく自分には恋人がいないことをアピールしてみる。


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