花盗人も罪になる
雨が降りだすのを気にして、少し足早に池の周りを散歩した。

希望は今日も楽しそうにりぃのリードを手に歩いている。

香織は希望の後を歩きながら、隣を歩いている逸樹の様子をそっと窺った。

背が高くて肩幅が広くて、長い手足を持った体は引き締まっていて、いかにもスポーツマン体型という感じだ。

甘いマスクと穏やかな雰囲気で、これまでの人生きっとモテたに違いない。

確か結婚しているとは聞いたけれど、所帯染みた感じはしないので、まだ新婚なのかも知れない。

香織はなんとなくもう少し逸樹のことを知りたいような気持ちになり、何か共通の話題はないかと考えた。

「村岡主任、学生時代バスケ部だったんですよね」

「ええ、中学高校の6年間はバスケ漬けの毎日でした」

「私は高校時代、バスケ部のマネージャーでした」

「そうなんですか?マネージャーってモテるでしょう?」

「モテるというか、先輩たちには本当に可愛がってもらいましたね」

「かっこいい先輩と付き合ったりしませんでした?うちのマネージャーはキャプテンと付き合ってました」

「いえ、キャプテンもかっこいい先輩もみんな女子なんです。女子高なので」

「あ……そうなんですか……。てっきり男子バスケ部のマネージャーだったんだと……」

逸樹とゆっくり歩きながら他愛のない会話をして過ごす時間は、とても穏やかで心地よい。

さっきまで大輔のことで悩んでいたのも忘れてしまいそうだ。


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