花盗人も罪になる
「北見さんと付き合いたい男なんて、きっとたくさんいますよ」

「だといいんですけど、なかなかいい出会いがなくて」

円は自分がモテることを本当は自覚しているのに謙遜して見せた。

「そうなんですか?でもいい人が見つかるといいですね」

逸樹は当たり障りのない無難な返しをした。

まさか自分が狙われているとも知らずに。

円は円で、いきなりガツガツして敬遠されては困るので、今日はこれくらいにしておくことにした。

焦らなくても時間はいくらでもある。

これから二人きりになる回数を何度か重ねて距離を縮めれば、逸樹をおとす自信が円にはあった。


駅に着き何線の電車に乗るのか尋ねると、逸樹の乗る電車は円とは別の路線だった。

「おしゃべりして歩いてると駅まであっという間ですね」

「暗いですから、電車を降りてから気を付けて帰ってくださいね」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」



改札を通り抜け別々のホームに向かって歩きながら、逸樹は大きく息をついてネクタイを少しゆるめた。

二人だけで話すのは初めてだったが、ずいぶん積極的な子だった。

のんびりした妻とは正反対のタイプの円をほんの少し苦手なタイプだと思いながら、逸樹は妻の待つ家へと家路を急いだ。




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