花盗人も罪になる
駅で円と別れて帰宅した香織は、入浴を済ませベッドに潜り込んだ。

円の射貫くような鋭い目付きが、目の奥に焼き付いて離れない。

人の恋路の邪魔をするなと円は言いたかったのだろうが、香織にとっては、大輔が好きなはずなのに逸樹のことも気になっている自分を責めているようにも感じた。

もし逸樹を本気で好きになってしまったら、自分もあんなふうになってしまうのではないか?

そんな不安が胸をよぎった。

それと同時に、奥さんを傷付け希望を悲しませてまでも逸樹さえいればいいとは思えないと、強く思った。

“だから、これはきっと、恋なんかじゃない”

自分に言い聞かせるように、香織は何度も口の中でそう呟いた。

香織は、ベッドサイドに飾った写真立ての中の大輔と二人で撮った写真を見つめて「助けて」と呟いた。

このまま大輔と会うことも、声を聞くこともできずにいたら、自分の気持ちがわからなくなりそうで、怖い。

「大輔……会いたいよ……」

香織は小さく呟いて、溢れる涙でシーツを濡らした。



結局、円の好きな人が誰なのかはわからずじまいだった。

誰かを傷つけてでもその人が欲しいと、円は言った。

香織はただ、その人が逸樹でないことを祈るしかなかった。








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