花盗人も罪になる
逸樹がお風呂から上がると、紫恵は洗濯機の前でワイシャツをじっと眺めていた。

逸樹は体を拭いてパジャマに着替えながら、紫恵は一体何をしているのかと首をかしげた。

「しーちゃん、どうかした?」

「……こんな汚れ、普通に洗濯しただけで取れるのか考えてた」

なんとなく紫恵の口調が冷たい。

「こんな汚れ……?」

逸樹は紫恵の手元を覗き込んだ。

いつの間についたのか、シャツの袖には化粧品と見られる汚れがついている。

「あっ……! あの店の……!」

逸樹はあの店の前で女の子に密着されたことを思い出し、焦って思わず声をあげた。

紫恵はピクリと眉を動かして洗濯機にワイシャツを放り込み、何も言わずに脱衣所を出ていった。

逸樹は慌てて紫恵の後を追う。

「しーちゃん!」

「もう寝ます。おやすみなさい」

逸樹は冷たく言い放つ紫恵の腕をつかんで引き留めた。

紫恵はその手をもう片方の手でほどく。

「明日の夜は同窓会があるので実家に泊まります」

「ええっ……ちょっと待ってしーちゃん!」

逸樹は背を向ける紫恵を必死で捕まえた。

「あれは別に……」

「私のいない所で、私じゃない誰かと私には言えないようなことしてきたの?」

「してないってば!」

「あの店って何?」

「いや……あの……」

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