花盗人も罪になる
紫恵は途端に歯切れが悪くなる逸樹の腕を振りほどき、寝室に入ってドアを閉めた。

そして真っ暗な部屋の中でさっさとベッドに潜り込み、壁の方を向いて横になった。

ドアを開けて寝室に入って来た逸樹が、そっと布団をめくった。

「しーちゃん……ホントに何もないから」

紫恵は返事をしない。

逸樹はベッドに入り、紫恵の体を抱きしめた。

「せめて言い訳くらい聞いてよ」

「聞きたくない。やましいことがあるから焦ったんでしょ?」

紫恵の口から発せられた思いもよらない言葉に逸樹は耳を疑った。

「……なんだよそれ……」

逸樹は先輩たちからの誘いを断ってあの店には入らなかったのに、紫恵に疑われていることに腹が立った。

好きなのは紫恵だけだ。

いつもそう言っているのに、紫恵を裏切るようなことは本当に何ひとつしていないのに、どうして信じてくれないのか。

「……もういい」

逸樹は言い訳するのも虚しくなり、紫恵から手を離してベッドから出た。

「そんなに俺が信用できないなら何言ったって無駄だろ」

逸樹がドアを強く閉める音が部屋中に響いた。


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