花盗人も罪になる
重ねた面影



紫恵は駅前のコーヒースタンドの奥の席で、冷めていくコーヒーを眺めながら背中を丸めていた。

逸樹に言われた言葉にショックを受けて、心咲と希望が来るのを待たずに予定より早く家を飛び出してしまった。

意地を張って話を聞こうとしなかったのは自分なのに、逸樹に冷たい言葉を投げ掛けられると悲しくて涙が溢れた。

逸樹を信じられないわけじゃない。

それなのに不安になるのはどうしてだろう?


ゆうべ紫恵はひどい夢にうなされ、真夜中に目覚めた。

夢の中で逸樹は若い女を連れて来て『紫恵、離婚しよう。彼女が俺の子を妊娠したんだ。俺は彼女と結婚するよ』と言って楽しそうに去って行った。

紫恵がどんなに名前を呼んで泣き叫んでも、逸樹は振り返りもしなかった。

普段は『紫恵』なんて呼ばないのに、夢の中ではそう呼んでいた。

それはまるで、もう愛していないと言われているように感じた。


うなされて目覚めた時、紫恵は泣いていた。

逸樹を失いたくないと心から思った。

それなのに今朝も意地を張って、イヤな物の言い方をしてしまった。

紫恵はぬるくなったコーヒーを一口飲んで大きなため息をついた。

本当に愛しているのに、どうして素直になれないんだろう?




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