憑代の柩
「いえ。
 でもまあ、衛さんにもいいとこあるんですよ」

 ふっと笑う自分を本田は見ていた。

「……あづちゃん?」
と本田の祖母が呼びかけて来た。

 迷ったが、
「はい」
と返事をする。

「お元気でしたか?」
と訊くと、ええ、ええ、と彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 大学では頑なだったあづさも此処では自然に振る舞っていたようだった。

 少し彼女とお話しする。

 疲れた様子の祖母を連れて、本田は一度、奥に引っ込んだ。

 その間、縁側に腰掛け、庭を眺める。

 庭を囲う剪定された木々。

 小さな畑と花壇。

 縁側の足許には、蔓植物が何鉢か置かれている。

 初めてきたのに、懐かしいような光景だ。

 これで鶏でも飼ってたら、完璧だ、と何が完璧なんだかわからないまま思っていたが。

 この住宅街で、鶏を飼ったりしたら、まあ、迷惑千万だろう。

 戻って来た本田が、頭の上から、

「そうだ。
 何か野菜、持って帰りますか?」
と言う。

 庭の隅の小さな菜園を見た彼は、まだ小さな芽しか出ていない一角を指差し、

「あれ、あづさが植えたんです」
と教えてくれる。
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