憑代の柩
 だが、出て行かない。

 足音が二つ聞こえていたからだ。

 ひとつは男物の靴音のようだった。

 電気をつける音がした。

 明るい光がこちらまで射し込んでくる。

 荷物が投げ捨てられるような音がして、

「待って」
という女の声が聞こえた。

「ちょ、ちょっと待って。

 そうじゃなくて、ちょっと待ってっ」
と焦っている。

 出て行くべきか。
 どうなのか。

 ぐずぐず考えるな、と自らを激励する。

「いやっ」
と高い悲鳴が聞こえたので、慌てて戸を引き開けようとしたが、内側からだと取っ手がないので、なかなか開かず、カリカリカリカリやってしまう。

「猫の霊でも出るのか」
という男の声がした。

「もう~っ」
としびれを切らした声と、誰かが這う音がこちらに近づいてきた。

 ガラリ、と外から襖が開く。

 眩しい光に目をしばたいた。

「なにやってんですか、もうっ。

 こういうときは、さっと出て来て助けるっ!」

 ニセモノの佐野あづさが、戸に手をかけ、座り込んでいた。
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