俺様上司と身代わり恋愛!?
お礼を先にもらっている以上、ここでしくじるわけにはいかない。
グロスをどうしても欲しかったわけじゃない。
ただ、〝今、全然手に入らないんだよー〟なんてたまたま同僚に聞いたもんだから、ミーハー気分でなんとなくって程度だし、グロスを返すという手もある。
美絵に『何でもするから!』と手を合わされたとき、これと言って何も浮かばなかったから『あ、じゃあグロスとか?』くらいのトーンで提案しただけだし……。
もうこの際返してしまうのもひとつの手。
まぁ、使っていなければ、の話だけど。
その話題沸騰中の入手困難なグロスは……実は今、唇の上に乗っていて、つまりは使用済み。
そうなってくると、返品はまず不可だ。
となれば……目の前の課長をどうにか騙すしかない。
もっと言えば、騙されてもらい共犯になってもらうしかない。
背中に汗をダラダラと流しながらそう腹をくくって、桐崎課長ををじっと見据えた。
「はっきり、言って欲しいですよね?」
「だからそう言ってるだろ」
探るように聞くと、桐崎課長はイライラした声で言う。
もうすでに怒っているような課長の態度に内心びくびくしながら続く言葉を口にした。
「はっきり言うのには、ひとつ条件があります」
「条件?」
茅野がなんでここにいるかって質問に答えてもらうために条件? おかしいだろ。
そんな顔をする桐崎課長の向かいの席に座る。
そして、顔をしかめる課長を、こちらも負けじと眉を寄せてじっと見つめてから。
「お願いします! このこと絶対に内緒にしてくださいっ! 何でもしますからっ」
そう頭を下げた。