にゃおん、と鳴いてみよう

その後、パパとママは柵越しに恋を温め合った。
抜け出せないような柵じゃなかったんだけど、パパのご主人様は心配性で、すぐにパパを探し回るから遠くに行けないらしかった。

でも、春のある日。
ママはどうしてもお気に入りの桜を見せたくて、パパを誘い出した。

パパはその日、ママといた。
桜の下で、いっぱい大好きって鳴いた。

だけど、帰る途中でパパを探しに来たニンゲンに見つかって、ママは追い払われてしまった。

それからは、お屋敷に行ってもパパには会えなかったんだって。


だけど、ママには残されたものがあった。
それが、あたしたち。

ママがあたしのこの黒い毛を愛おしそうに見るのは、きっとまだパパの事が好きだからなんだろうって思う。


月の出る夜は、よくママと『ゴハン屋敷』の屋根にのぼる。


「にゃーおん」


ママが奏でる声は、大好きようっていう思いに溢れてる。

パパの為に鳴いてるのかな。
パパには届いてるのかな。

ママ、あたしはママが大好き。
パパにもう二度と会えなくても、あたしは傍にいるからね。

だから、泣かないで。あたしの声、きいててね。


「にゃぁおん」


あたしも、大好きようって鳴いてるのよ。

分かる? ママが大好きよ。

ママは微笑んで、あたしの毛並みをぺろりと舐めた。

ツヤツヤの黒い毛と甘えるような鳴き声は、あたしの自慢。
ママが褒めてくれる、あたしの大切なもの。
ずっと大事にするからね、って心の奥で誓った。

< 4 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop