未熟女でも大人になっていいですか?
腕の中でカツラの意識が遠のいた。

自分を抑えきれずに無理をさせてしまったらしい。



「カツラ……」



名前を呼びながらあの日のことを思い返した。

母を亡くして落ち込んでいるカツラをどんな言葉で慰めればいいか迷いながら、俺は玄関の前に立っていた。

名前を名乗ったところで素直に開けて貰えるとは思わず、仕事で使っている名称を口にした。

チャイムのボタンを押さえる前に気づいていた壁の話から始めればいいと考えた。

笑わせるどころか口論になって、でも、銀行へ行くと言うからチャンスだと思った。


自分のことを少しでも教えられる。

先ずはそれができればいいとーーー。



「初めて笑い声を聞いた時、俺がどんなにホッとしたか知らねぇだろ」


髪の毛を手繰り寄せて口づけた。

息が乱れたままの頬は、あの花の色に似てる。



「綺麗だ……」


この言葉を直接言ってやりたかったのに、無言のままで抱いてしまった。

カツラの体が官能的過ぎて、欲望は倍になって膨らんだ。


ぐったりとしてる体を抱きしめてやった。

心音はゆっくりとだが落ち着いてくる。

その胸の谷間に顔を埋め、もう一度ゆっくり味わいたいと願った。



「カツラ……起きろ……」


意識のない女を抱くのは嫌だ。

俺はあの時と同じように笑ってるこいつが見たい。


目を見て言ってやりたい。


ーー今の気持ちを。



「……愛させてくれ。……俺の全身でお前の全てを……」


< 105 / 208 >

この作品をシェア

pagetop