未熟女でも大人になっていいですか?
やっぱり諦めないんだな…と言いたくなるのを抑えて頷く。

少しだけ満足そうな表情に変わった女は、買えたら声をかけてと言った。


(あーあ、こっちの給料安いのに上等品のコートを買えっていうのか……)


心で泣いて女の背中を眺めていると、怒った肩が振り向いて名前を聞く。



「仙道 保と言います」


イントネーションは間違っていなかったと思うのに、何故か『船頭』と間違われてしまった。



「あんた職業間違えたんじゃないの!?あはははは…!」


間違えているのはそっちです…とは言えずに黙っていると、細まった目は大きくなり、恥ずかしそうな横顔を見せて立ち去って行った。



「……最初からそんな顔してればいいのに」


息を吐きながら背中を見送った。


怒り肩の女の恥ずかしそうな横顔を忘れられないまま週が変わり、問題の休日になった。




「……さて、ここからがネックだ」


デパートの婦人服売り場の前でたじろぐ。

買い直せと言われたのはいいけれど、どんな物を買ったらいいのかが分からない。

そもそも本人の服のサイズも知らずに、どうやって品物を見つければいいんだ。



「コートをお探しですか?」


香水くさいマネキンが寄ってくる。


「あ…はい…」


逃げ出せないのはいつものことだ。


「どの様な色味をお探しですか?淡いベージュ?それともパステル調のブルーとか?」


「え、え……と………」


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