未熟女でも大人になっていいですか?
はぁーっと深い溜息が聞こえた。

入浴前に聞こえてきたのと同じ、呆れるような響き。



「今夜もナシにするか?」


問いかけになんと答えればいいかも弱る。

何も言わずに背を向けている私を高島はきっとどうしようもない女だと呆れ果てていることだろう。




「そんなの俺は我慢できないけどな」


無理矢理背中を包み込まれる。

羽交締めにも似た行動に、思わずビクリと背中が伸びた。


「やだ!やめて!離して!!」



あの日と同じくらいの恐怖を覚える。

力強い手で掴まれた掌をぎゅっと握り締めた。



「カツラ…」


振り向かされた唇の隙間から入り込んだ舌先が、口腔内を彷徨い始める。

その口づけを受け止めながらブルブルと体の方は震え上がった。


音を立てながらキスを繰り返されても、家での様な膝折れにはならなかった。

蕩ける筈の気持ちはむしろ、反対に冷めていってしまう。



「ーーお願いだからやめて。今とてもそんな気分じゃない……」



独りよがりにならないで。

私をもっと見て欲しい。



「何が気に入らない」


怒った様な声で聞かれた。

鋭い眼差しが胸の奥に突き刺さる。


「望さんの過去が」と答えれば、彼は何と言って弁解するのだろう。

その答でさえも、今は聞きづらい。




「……まだ…夜じゃないし……」


夕暮れにも時間は早い。

拒み続けるには、絶好の理由だと思った。


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