イジワル上司に焦らされてます
 



「辰野さんに……話してきます」



震える唇で、なんとかそう言葉にしてから席を立った。

つい先程、辰野さんとメールのやり取りをした時に、今日、辰野さんはカジタ本社に終日いると言っていた。

だからきっと、カジタ本社に行けば辰野さんに会えるだろう。

会ったらまずは、辰野さんに頭を下げなければいけない。そして事情を説明し、再度ネームとロゴ案を検討させてほしいと伝えるんだ。

何より案じなければいけないのは、私が渡したネームとロゴ案を持って、既に辰野さんが上司に話を通していた場合。

そうなると、それは辰野さん自身の確認ミスだと辰野さん自身が上から叱責されるかもしれないし、辰野さんにも多大な迷惑が掛かることになるだろう。



「あれ、日下部ちゃん? 今日は外での打ち合わせないはずじゃ……って、」

「すみません……っ、今は急ぎますので、また帰って来てから説明します!!」



オフィスを出るために、不破さんの後ろを通っても不破さんの顔を見ることはできなかった。

そのまま早足で廊下を歩いてエレベーターに乗り込む直前、別のフロアで打ち合わせを終えてきたカニさんと出会した。

だけど、声を掛けてくれたカニさんにも素っ気のない態度を取ったまま、私は到着したエレベーターに飛び乗った。

閉ボタンを押せば、呆気無く閉じた扉。

扉が閉じる直前、驚いたように目を見開いたカニさんの顔が見えたけれど、今はもうそんなことすら気にしている余裕はない。

 
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