短編集「見かけ倒し。」
みよ「こんな話をしていたら、戦意喪失になりはしませんか。」

ボクサー「まったくですよ。何しに来たんだ」

みよ「お祝いに。」

ボクサー「非常識だ。」

みよ「死んだら、お祝いできませんから。」

ボクサー「やめろ。」

みよ「このケーキは、お母様の経営されてるパティスリーで、お作りになったものです。」

ボクサー「なんだと。」

みよ「試食させて頂きました。全種類。どれも本当に美味しかった。」

ボクサー「やめてくれ。憎しみを石炭に出来なくなる。」

みよ「あなたはもう、もっと、別の力で闘う時が来たのです。」

ボクサー「なんだよ。」

みよ「愛です。」

ボクサー「愛なんて、信じない。あんな、あやふやなもの。あんな、確証のないもの。あんな、裏切られるもの。」

みよ「必ず、大丈夫だわ。」

ボクサー「どうして言える。筋肉は裏切らない。トレーニングは裏切らないんだ。お金は裏切らない。誇りは逃げやしない。」

みよ「お母さんが付いてくれています。」


ボクサーは、一口、ケーキを手ですくった。

ボクサーは、涙を流した。


ボクサー「母さんの作ってくれたケーキの味だ」

みよ「覚えていてくれたんですね。」

ボクサー「俺のすべてだ。」

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