エリート上司と偽りの恋
その後、何事もなかったかのようにトイレに向かった主任。

私は耳にかけられた髪を急いでもとに戻し、落ち着かせるように両手を胸に当てた。


な……なんなの?どういう意味?

わけ分かんない……。


席に戻った私は、梅酒が入ったグラスを強く握りしめる。

「加藤さーん、怒ってます?」

桐原さんの声は聞こえていたけど、今はそういう問題じゃない。私は怒ってないと言う変わりに、軽く首を振った。


しばらくして主任は戻ってきたけど、もちろん私は顔を上げることができなかった。

なんか、具合悪くなってきたかも……。


「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」

「ごめん、私ダメかも」

「加藤さん具合悪いみたいでーす」

いやいや、だからそんな大声で言わなくても……。


「お前がそんななるなんて珍しいな。どんだけ飲んだんだよ」

「ごめん新海君。とりあえず足りなかったらあとで請求して」

私の側にきて声を掛けてくれた新海君に五千円を渡した。

「大丈夫か?無理しないで帰っていいぞ」

手を上げてそう言ってくれた部長にお辞儀をした私は「お先に失礼します」と言い残し、足早にその場を去った。



「大丈夫かよ、送って行くけど」

「あー大丈夫大丈夫。平気、ありがとね」

階段の前まで来てくれた新海君に、今できる精いっぱいの笑顔を向けて手を振った。

お酒は二杯しか飲んでない。だから決して酔っ払ってるわけじゃないけど、胸が苦しいし、なんか体もフラフラする。

とりあえず、早く帰ろう……。



< 15 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop